触った神に祟られた

君が其処に生きているという真実だけで幸福なのです

可惜夜に寄せて。

 

あたら・よ【可惜夜】

…明けてしまうのが惜しい夜。(大辞泉)

 

”可惜夜”という日本語は、いわゆる大和言葉のひとつです。辞書によっては、「明けてしまうのが惜しいほど素晴らしい夜」なんて書かれていたりもするのですが、何にせよ、むかしむかしの大和の人は、よくもこんな素敵な言葉を思いたものです。もしかすると、今日この日の私が、後ろ髪を引かれつつもきちんと朝を迎えられるように、十代の彼を愛おしく思いつつも優しく手放せるように、この言葉を遺しておいてくれたのかもしれない。昂った今、そんな風にすら勘違いをしてしまいます。

 

さて、

親愛なる猪狩蒼弥さん、

ハタチのお誕生日、

おめでとうございます。

 

18歳のお誕生日に沼落ち回顧録を、19歳のお誕生日に好きなところ19個を、どちらも心ゆくまで長々と書いた私ですが、どうしてでしょう。今日は筆がちっとも進まなくて。こんなに大好きで愛していて尊敬していて、伝えたいことは、語りたいことは尽きないはずなのに、筆がちっとも進まなくて。止まってはくれない時間に追われて覚悟を決めつつも、去年や一昨年に比べるとお祝いに明らかに乗り気でなくって。こんなんじゃ、"二十歳になるデメリットって一個もないじゃないですか?"と言い切った大好きな猪狩さんに呆れられてしまうかもしれないけれど、それでもどうしてもこの夜が明けて欲しくなかったと愚かな私は思うのです。ごめんね親愛なる猪狩さん。でも、本当におめでとう親愛なる猪狩さん。愚かな私だけど、世界中の全ての夜がいつか明けるものであるということは知っていて、貴方と一緒に朝を迎えたいとは思っていて、だから今日のタイトルは、" 可惜夜に寄せて。"になりました。

 

出会った当時、17歳だった猪狩さんと私。

あの頃、現役高校生だった猪狩さんと私。

 

現役高校生という数少ないお揃いは、ふたりが高校を卒業した春にひとつ消えてしまいました。その代わりに、東京を住処にしているという数少ないお揃いが、私が大学に入学した春にひとつ増えました。高校生だった私たちは、もう何処にも居ません。自動車免許を持っているお揃いも、ひとり暮らしをしているお揃いも、時が経つにつれて、いつの間にか増えていました。気付いてないだけで、いつの間にか消えてしまったお揃いも沢山あることでしょう。そんな風に、私と彼は出会う前も出会った後も、絶えず変化しながら十代を過ごしてきました。高校生だった私たちは、もう何処にも居ません。見慣れぬ東京の街で見かける度に寂寥感を募らせていた学ランやセーラー服は、気付けば今やもう青春真っ只中を生きる見知らぬ誰かの帰属を示す記号でしかなくて、ノスタルジーはいつも遅れて2番目にやってきます。高校生だった私たちは、もう何処にも居ません。

 

でも、それでいいのです。

 

十代という特別な煌めきが遠のく音を聞きながら、私は日々を生きています。出会うのが遅かった私が間近で見れたのは、期間にしてほんの三年足らずだったけど、それはまるで柔く儚い幻のようだったけど、だからこそ嗚呼まだ行かないでとだらしなく縋ってしまうけど、私にとっての"彼の十代"というのは、まさに「明けてしまうのが惜しい夜」みたいなものでした。

 

夜がいずれ明けゆくことなんて最初から知っていたはずなのです。

 

知っているからこそ、限りある時間に執着してしまうのでしょうか。人は、皆何故か十代という青春時代に魅せられてしまいます。でも、きっと十代なんて長い人生の序章で、可惜夜です。貴方の夜も、私の夜も、間もなく明けます。

 

貴方はずっと私の夜のお月様でした。

 

遠い空にぽっかりと浮かんでいて、拙い私の手では到底届かないところに浮かんでいて、手が届かない分だけいっそう綺麗で、手は届かないのにどこまでも私の隣をずっと着いてきてくれるお月様でした。

 

ねぇ猪狩さん、

貴方の一度きりの十代をアイドルに捧げてくれて有難う。

私の夜を片時も離れず月明かりで照らし続けてくれて有難う。

月明かりが届かぬ暗闇にはやさしい愛をぎゅうぎゅうに詰め込んでくれて有難う。

 

そして何より、そんな風に過ごした十代を、"日本で一番楽しい十代"と評してくれて有難う。 

 

此処は日出ずる国。お月様だった猪狩さんは、お日様になるのかもしれません。可惜夜が明けてしまう明朝からの日々、どうか大好きな猪狩さんが、日の目を見られる幸せな朝でありますように。

 

三回目のお祝いの言葉が、一番下手くそになってしまったけど、貴方の幸せの他に、私が望むことなどありません。どうかその気持ちだけでも、ハタチの貴方に届きますように。

 

最後になりましたが、20歳の猪狩さんは勿論、ここまでお付き合いくださった皆様にも幸多からんことを。

 

 

乱文乱筆失礼致しました。

2021.09.19.

 

(書きながら凄く泣いていて、珍しく言葉が綴れなくなったので落ち着いたら書き足します。猪狩さんを語る言葉がこんなに出てこない夜があるとは思わなかったので今日は記念に未完のまま投稿します。ハタチに振り回されたオタクの葛藤の痕跡だと思って笑って許してやってください。どうぞお手柔らかに。)